「兄弟」を表す英語に関して - 言語学

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佐藤先生の授業内で購読したテキスト「Chapter 7, Language Variation」の中に、vocabulary differences という項目があり、単語は違うが対象は同じであるとか、単語は同じで対象が違うという場合、また対象は同じで単語が違う場合に関する英単語の文化差に強く興味を持った。自身がDJをしているため、英単語を使う際のヒントにもなりえる。言語学的には、標準言語と非標準言語といった区別をすることなく、各々の単語が持つヒストリーを味わい、尊敬するという姿勢をとる。このレポートでは、「兄弟」という単語について深追いし、留学生や現地の知人、論文を参考にしながらまとめていきたい。

 

「兄弟」

兄弟というのは日本語でもいくつか意味をもつ。

 片親または両親を同じくする男の子供たち。兄と弟。また、その間柄。けいてい。
 男女の別なく、片親または両親を同じくする子供たち。また、その間柄。兄弟姉妹。「姉二人、兄二人の五人兄弟の末っ子」「兄弟げんか」
 養子縁組みなどにより親を同じくする間柄になった者。また、自分の兄弟姉妹の配偶者または自分の配偶者の兄弟姉妹。義理の兄弟。
 親しい男性どうしが、くだけた場面で用いる呼び名。「おい兄弟、ひとつ頼むよ」
 「兄弟分」に同じ。

(デジタル大辞泉で検索)

今回リストアップできる英単語は主に4番の意味(友達や親しいものなどに対する呼称)である。

・Best friends, bestie

主にアメリカの西部サンフランシスコに住む10代~20代の女性に多く見られる言い方である。Bestieという表記は主にSNSや話し言葉で使われる略語で、発音も容易く、明るい印象を受ける。

・Brother

主にアメリカ全般、西部ヨーロッパ圏、東南アジア、東アジア、イスラエルなどで使われる基本的とも思われる表現である。日本語の「兄弟」という単語を的確に表していて覚えやすい単語である。

・Bro

Brotherと同様の使い方であるが、短縮形のため会話やSNSでしばしば見受けられる。

 “Ay, what up bro?” といったように短く挨拶を終えることができる。私の友人も”Bro”を多用する傾向にある。また、Hip-hopの文化が”Bro”を大きく流行らせた。リズミカルな歌詞には省略が多用されているため、参考になる。

・Brof

“Brother”の省略形で、主にイギリス南部やイギリス系移民が使う方言である。英国王がこの省略形を使うことはなく、非常にインフォーマルな方言であるため気の置けない仲間にしか使えない。ロンドンやマンチェスターに行くときには、どれだけ“Brof”という言葉が自分にかかっているかが友達ラインを示してくれる。現在の言語学でslangを研究している方は大勢いらっしゃると思うが、なぜ”Bro”ではなく”Brof”なのかという観点での考察を見たことがないため、佐藤先生に質問です。そのような研究はございますでしょうか。省略のメカニズムなどは購読したテキストで学べたため、そこに関しては問題ありません。

・Family

「ゴッドファーザー」や「ワイルドスピード」などの映画でも見受けられるこの表現。非常に内輪意識の強い単語である。日本的文化観とも呼応する単語だが、主にアメリカのギャングやマフィア、南部高級住宅街、ヒスパニックが多用する単語である。仕事仲間や同じ志を持つものなど、友人程度の付き合いではない点がいままでとの違いではないかと思われる。公私混同が当たり前の職種(ギャング、マフィア、警察、意思、研究者など)では同種に属する意識があるため、家族のような内集団が形成されるに違いない。文化心理学的に、日本は基本的に内集団と外界の境目が明確で、なかなか外からの進入を許せない傾向にある。しかしアメリカでは境界が不明瞭のため、他者への信用度が必然的に高くなり、それゆえ単語レベルにおいても親しい友人を家族と表記する思考が生まれているのではないかと思う。単語の生成と思考に関しては、AIの研究が盛んであることも踏まえて、重要な領域である。

・Homies

主にブロックやストリート、フッドと呼ばれる地域から生まれ言葉で、今では差別用語ともとらえられる言葉である。言語学的にもタブーの範囲に含まれる単語で、具体的にも用途が決まっている。例をあげると、AさんとBさんがいて、Aさんは白人、Bさんは黒人だとする。お互いにアメリカで暮らしているにもかかわらず、白人が黒人を30年前まで合法的に痛めつけてきた過去がぬぐい切れずにいる人も一定数存在し、AさんがBさんに

“What up my homies?” といったとする。これをBさんは差別とみなし、喧嘩になってしまった。言語学的には方言とみなされ、意味も伝わっている。しかし、Bさんにとっての”homies”という言葉は、「差別を耐え抜いた俺たち」という意味を独自に形成していて、いわばストリートでの方言を形成していた。それにAさんは気づかず、むしろ範囲が違ったために、誤解を招いてしまった。このような例は日本ではほとんど例が無いように思う。同音で対象も同じなのに、解釈が違うという方言は日本にあるのだろうか。

・Posse

この言葉はラテン語が由来の、美しくかつダーティーな単語である。主な意味は「友人や兄弟」で”Brother”と同じ使い方をする。ラテン語で「郡兵」を意味し、それがアメリカに伝わって当時警察が機能していなかった時代の自警団をPosseと呼んでいた。今でもメキシコとアメリカの国境には不法移民を阻止する自警団、ニューヨーク警察と市民の間の問題を仲介する自警団など様々ある。彼らが持つ正義、市民からの尊敬の念が次第に「正義感のある人」をPosseと呼ぶことにつながり、親しい友人をPosseと呼ぶに至った。

 

 以上「兄弟」に関する方言やslangを比較してみたことで面白いことが分かった。それは方言やslangには省略やコピーが多く存在するということだ。テキストにもあるように言語に正解はなく、ピジン、ジャーゴンのような伝線用の言語と並んで、いかに情報を強要するかということに重きを置いている。しかし、”Homies”の例にもある通り、地区によっては意思疎通の難しい単語もある。各々の文化をよく知ることは言語から始まる。私もこの授業を機に、日本語を今一度見直して、方言や語彙を増やし、円滑なコミュニケーションが取れるようにしていきたい。英語も同様、適切な単語を使えるように勉強していきたい。

 

参考文献

武本 昌三(1969)「アメリカ英語における南部方言の特徴について」 49-75

ロング・ ダニエル (1998)「方言のデータベース化の課題とその現状」『 人文学 と

情報処理』18:8186

山田 政美、田中 芳文(1999)「ハリウッド・ジャーゴン : 現代アメリカ英語スラングの研究」43-56

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