環境保全と社会の仕組み -釧路湿原を取り巻くビジネスと共生-

                1.はじめに

1-1 釧路湿原は日本で初めてラムサール条約に登録された湿地である。現在は、日本最大の泥炭湿原として、最先端の自然再生事業推進地域として取り組みが進んでいる。位置として、北緯43度09分、東経144度26分と北海道の道東に位置する。標高は10mに満たず、面積は7863ヘクタールを有する。湿地のカテゴライズとしては、低層湿原、淡水湖、河川である。国の保護対象とされ、国指定鳥獣保護区特別保護区、国立公園特別保護地区及び特別地域である。領域は、釧路市、標茶町、鶴居村にまたがっている。

1-2 本レポートでは、講義で学んだ「コモンズ」の観点から釧路湿原を取り巻くビジネスを考えたい。全3回の宿題では釧路湿原の現在に至る歴史をまとめようと検討したが、それ以上に本テーマが興味深いため変更を行った。本レポートでは、「観光ツアー」、「北海道釧路総合振興局」、「ゲストハウス」、この3つの観点から釧路湿原を取り巻くビジネスを見ていきたい。

1-3釧路湿原は、かつて海だったが、海が後退し、太平洋との開口部に”さし”が発達するにつれ汽水湖となり、3000年ほど前から砂嘴の内側の湖底に泥炭の蓄積がはじまり、次第にいまのような湿原となった。南側以外を丘陵に囲まれ、釧路川、久著呂川、雪裡川などが大きく蛇行しながら流れ込み、その支流が湿原を網の目のように走っている。湿原の東側にはシラルトロ湖、塘路湖、達古武湖の3つの淡水湖沼があり、また湿原には大小のいくつもの沼が点在し、ヤチマナコが口を開けている。泥炭地の約80%がヨシ・スゲ群落とハンノキ林に特徴づけられる低層湿原で、残りの約20%をヌマガヤ、ヤチヤナギを主とする中間湿原、ミズゴケ群落を主とする高層湿原が占めている。高層湿原 にはトキソウ、サワラン、湖沼群にはセキショウモ、タヌキモなど、さまざまな植物が生育している。氷河期の残存種といわれるクシロハナシノブは、この地方の固有種である。野生動物も哺乳類約26種、鳥類約 170種と生物相豊かで、世界的に絶滅の危機にあるタンチョウやオジロワシ、オオワシなども見られる。キタサンショウウオの生息地でもある。タンチョウは特に保護が厚く、1890年頃、一時は絶滅したと思われたが、1924年、釧路湿原で少数が生き残っているのが発見され、1952年から地元の人々によって給餌が成功し、現在では1500羽以上が生息している。湿原の鶴居村にはタンチョウサンクチュアリも設けられた。

                2. 3つの観点から

2-1生物アセット、土地アセットを兼ね備えた釧路湿原にて、どんな観光モデルがあるのか考察する。北海道鶴居村では、釧路湿原地区の特性を活かした観光ツアーの企画、釧路湿原の特性を堪能できるオーダーメイド体験ツアーの企画・提供により、地区念願であった観光収入を実現している。札幌中心部と比較して、鶴居村が持つアセットは釧路湿原によるところが大きい。先述した釧路湿原の特性を生かすためには、「外部からのツアー」が必須である。その点は他の観光地域と大差がない。しかしながら、「釧路湿原を体感するオーダーメイドツアー」は魅力的だと考える。自然の中での暮らしや、釧路湿原・知床周辺における自然・歴史・文化ツアー、アラスカネイチャーツアー、全天候対応オーダーメイドの体験型ツアーを提供することで、型にはまった自然を見るのではなく、生きた思い出となって観光できる。また、共生に大切な「地域を知る」ということも観光客に伝えることができる。ツアーでありがちな、人工的な自然を体感することでそこに住むコミュニティやリアルな生活を知ることができずに、他の地域からのサポートが不十分になってしまうことが往々にしてあるが、この鶴居村の取り組みではより実生活に根差した形でツアーを導入している。これはツアーと共生が一体化している証拠だと考える。天候に左右されるツアーは、一生に一回しか見ることのできない思い出にもなり、ビジネスの観点からも継続性が高い。観光アセットをフルに利用した鶴居村のツアーは、今後もより発展していくだろう。

2-2 次に、「北海道釧路総合振興局」のアプローチを基に考察を始めたい。北海道釧路総合振興局では釧路・阿寒湖公式サイトをインターネットにて運営し、基本情報、観る楽しむ、食べる・お土産、宿泊施設、アクセス、周辺観光、観光エリア別としてカテゴリーを作っている。観光エリア別では釧路を選択できる。釧路のタブには、釧路の特集記事、釧路の観光スポット、釧路のモデルコース、釧路のガイドツアー、釧路の歴史と文化、釧路のアート、釧路のイベント、釧路のアクティベーション、釧路のゴルフ、釧路の食べる、釧路のお土産、釧路の宿泊施設と詳細なカテゴリーに分けて紹介していた。サイト内ではローカルでビジネスを行う団体をピックアップして支援プロモートを行っている。このように、地元のコミュニティを行政でバックアップする姿は、各自治体にて見られるもので、特に釧路湿原を取り巻く団体は保全と観光を主体にしているため、その発信に弱さがある。その点を行政側で、インターネットも駆使してバックアップを取っている。また、hokkaido to goというサイトでは、釧路湿原の魅力を海外層に伝わるようデザインをシンプルにしている。スポンサーに経産省や「元気です北海道」を取り込み、運営を行っている。インターネットアセットと観光アセットを組み込んだビジネスと言える。また土地の管理では、自然公園の工事関連を管理しているのが北海道釧路総合振興局である。自然公園の保全にはメンテナンスが欠かせず、その管理を一元的に担っているため、地域コミュニティや請負会社との調整なども担っている。公園の管理を無責任に民間で行うのではなく、行政が責任をとって管理を行う姿勢は評価される。公務執行の観点から地域保全を行うことは、バランスという点で優れている。

 2-3  3つ目に釧路湿原を取り巻くゲストハウスについて考察する。近年、ゲストハウスは、低廉な宿や一人旅で利用しやすい宿、旅先で暮らすように泊まれる宿として注目を浴びてい る。そのなかで、ゲストハウスの魅力は「宿泊客同士のコミュニケーション」 や「旅の情報交換」、「アットホームな雰囲気」という点である。リクルートライフスタイル(2013) は、ゲストハウスの魅力は宿泊費が安く抑えられるという金銭面以外に、その場所に様々な国や立場の人が集うことで、「いつもと違う出会い」や「人とのふれ合い」が享受できる面にあるという。さらに、ゲストハウスが旅行者に限らず、住民同士や旅行者と住民とのコミュニケーションの場として機能しているとする報道もある。ゲストハウスに関する現象を分析することは、宿の根源的な機能の1つである 交流機能のあり方を検討する上で示唆に 富むと考えられる。ホテルや旅館の大規模化・機能単一化が進んだことによって、現代では小規模な民宿やゲストハウスでしか、面識のない者同士のコミュニケーションがみられないと大野(2013)述べている。ゲストハウスがもたらす共生へのカギの一つとして、先述した地元と旅人の交流がある。地元民が伝えたいリアルを、世界中のゲストが宿泊を通して感じることができる。コモンズにおいて衝突が起こるのは、先方の利益を顧みないことによるものが多いと講義で感じた。その点に関して、相手の利益が出ないことを知っていて対立することよりも相手の利益がそもそも何であるかを知らない、無知の状態が多い。ゲストハウスの設置が増えることで、住民コミュニティと近い視線で外部者が関わることができると考える。その点においてゲストハウスはコモンズに対して正の働きをもたらすと考える。釧路湿原の代表的なゲストハウスとして「釧路湿原とうろの宿」があげられる。こちらのゲストハウスでは少人数しか泊まれないスタイルで、「家感覚」を呼び起こす。

サイトの紹介では

「釧路湿原に一つの小さな集落があります。「とうろ」

コンビニもない駅前に立つと1両の汽車が走り去って静けさが戻ってきます。
ホームの先には湿原が広がり広い空の下にいる自分に気が付きます。」

と書かれている。こちらの宿について、比較地域社会学の観点で考察を加えたい。とうろの宿では先述した「観光アセット」を利用し、カヌーツアーを慣行している。大自然の中で、人工物に惑わされることなく、釧路の良さを実感できることから世界中からリピーターは絶えない。自然に対して強引な観光をすることなく、自然保護を軸にした観光が魅力である。人が少ないことによって懸念がなされる、釧路コミュニティに対して、このゲストハウスの働きは強く作用している。世界中から認知を集め、リピーターを増やすことで「釧路の自然を守る」という気持ちが世界中に拡散する。ビジネスチャンスを求めている人は、自然を守る形でのビジネスモデルを求め、やがては「ゲストハウス」のような形に帰着するだろう。それはやがて釧路に人を呼び込むパワーとなり、湿原を守る力になるだろう。釧路開発資源部によると、

「近年、流域の経済活動の拡大に伴い湿原面積が著しく減少し、湿原植生もヨシ・スゲ群落からハンノキ林に急激に変化してきています。自然は推移するものであり、湿原が長期的には陸化するのは避けられませんが、近年みられるような変化は、野生生物のみならず人間にとっても好ましいものではありません。よって、湿原の保全・回復のため、実践的な各種調査・試験を行い、早急に対策に取り組む必要があります。

 また、釧路湿原は、釧路川流域の河川環境の一部であり、流域住民、市民団体、民間企業、関係行政機関すべてが多様な形で釧路湿原とかかわっています。しかし、そのような認識を基本とした交流・連携の事例は極めて少ないのが現状における課題といえます。」

これよりわかることは、認識が進んでいない状態の開発が河川流域に害であることです。調査研究は大学や国がスピーディーに進めるべきことですが、開発に関してはやはり企業側の認識が重要です。ゲストハウスの開発が今後進むとしても、自然保護の観点を抜きには検討できないでしょう。

3.まとめ

 上記3つの観点から、釧路湿原を取り巻くビジネスと共生を考察した。現在は自然保護の観点からいまだ「観光ツアー」や比較的小規模な状態の「ゲストハウス」のビジネスが主流だが、今後の釧路湿原を取り巻くものとしては、「スキー場なども視野に入れたリゾート化」、「不要な観光施設」、「自然保護の行き過ぎによる観光業の衰退」これらのアイデアが浮かぶ。いずれも最終的に行きつく帰着は「人口減少」と思われる。最終的に釧路に人と企業と自然が両立することが、コモンズとしての成功であると考える。そのためには先述した3つのモデルをより密接に結びつけ、コミュニティとの溝を浅くしていくことが重要と考え、本レポートを終了する。

 

参考文献

DBJ北海道支店企画調査課, アジア8地域・北海道観光に関する訪日外国人の意向調査(平成26年版), 日本政策投資銀行

伊藤浩司, 釧路湿原の合理的利用方策, 北海道大学大学院環境科学研究科邦文紀要, 6, 1-15

大野正人, 「ホテル・旅館の交流機能と文化表現の変遷と将来」, 日本交通公社 『観光文化』, 217, 2013年, 21-23頁

中道 仁美, 井上真・宮内泰介編著, 『コモンズの社会学』(シリーズ環境社会学II), 現代社会学研究, 0915-1214, 北海道社会学会, 2002   , 15, 153-155

渡辺 綱男, 中山 隆治, 横関 隆登, 下村 彰男, 釧路湿原自然再生事業における多様な主体の参加による持続的展開に関する研究, 環境情報科学論文集, 2012, ceis26 巻, Vol.26(第26回環境情報科学学術研究論文発表会), p. 113-118

 

引用元

釧路湿原とうろの宿/ http://www9.plala.or.jp/touro/

釧路開発建設部/ https://www.hkd.mlit.go.jp/ks/

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